珍獣の飼い方10の基本







とてもきちょうで、めったにてにはいりません
まずはかわいがってきにいってもらいましょう
かいぬしのへんかにびんかんです
かわったものにきょうみをもちます
だっそうにきをつけましょう
かまいすぎるのはあまりよくありません
ていきてきにけづくろいをしてあげましょう
おこらせるとおもわぬはんげきをうけます
きほんてきにマイペースです
さびしがらせてはいけません

Titles from rewrite ... thanks!




   


とてもきちょうで、めったにてにはいりません


「…なんだ?」

 十秒近く見つめられれば、聞いてみたくもなるものだ。

 キョウトから紅蓮と共に寄越された少女は、ポン、と手を打ち、何かに納得したように頷く。にこり、と笑ったその顔は、今から所属する組織のリーダーに対するものではなく、旧知の人間に向けるものだった。

「おひさしぶりです。七年ぶり?」

 そっかー君がゼロだったのかーなんて暢気に呟く少女に、見つめていた騎士団のメンバーはゼロも含めて絶句した。「私がゼロだ」「なんだ?」の二言と、一切肌の出ていない外見だけで、どうして知り合いだとわかるのか。

「…、と言ったか。君の知り合いに、似た人物でも?」

 全身覆われた仮面の人間に似た奴などいてたまるか、と思わず心の中でつっこんだのはたぶんカレンだけではない。ああ、ゼロが動揺してる。

 めったに無いゼロの動揺を引き出した少女は、ことり、と首を傾げて言った。至極あっさりと。

「だって、君は君でしょう」
「…なぜ、わかった」

 いいかげん諦めたのか、低い声で聞いたゼロに対する答えは、またあっさりとしたものだった。

「勘。」

 勘なんかでわかってたまるか、と思ったのもまた、カレンだけではなかった。



(なんでわかるって言われても、君は君なんだからわかっちゃうよ)

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まずはかわいがってきにいってもらいましょう


「あ、そうだ!うちの子、どうしましょう?」
「は?子供?」

 身長差のせいで見上げながら聞いてきた少女の問いは、ちょっと衝撃的だった。扇は思わず問い返す。

「あ、すみません、紅蓮ちゃんのことです。開発者がうちの子って呼んでたから、それが癖になっちゃって」

 にこり、と笑った少女は、まだその場に残っていた騎士団のメンバーに向かって、ぺこりと頭を下げた。

「キョウトから参りました、と申します。情報担当として働かせていただきます。で、この中にいるのが紅蓮ちゃんです。私共々、よろしくお願いします」

 ナイトメアとは思えない紹介をした少女に少し戸惑いながらも、扇は笑って右手を差し出した。

「ようこそ、黒の騎士団へ」



(この若さで子供がいるのかと、一瞬、本気で焦った)

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かいぬしのへんかにびんかんです


「あらためて。久しぶりだな、

 トレーラー内の自室で、仮面を取って相対する。うんひさしぶりー、と返したは、じっとルルーシュの顔を見つめた。正確には、その左目を。

「なんかさ、すごーく不思議な目だね、その左」
「…なにがだ?」
「なんか、力強いっていうか。右目と違うんだよね」

 元々ルルーシュくんは目力つよいんだけど、とどこまでも暢気に話すに、ルルーシュは思い切りため息をついた。

「相変わらずだな、その勘の良さ」
「家系ですー。なになに、なんかあるの、ヒミツが?」

 わくわくしてます、という表情を隠しもせずに向けてきたに、そのうちな、とだけ告げる。頬を膨らせたのに笑って、ルルーシュはの頭を撫でた。



(どうして全て、わかってしまうんだろうな)

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かわったものにきょうみをもちます


「何をやってるんだ」
「んー…」

 がご執心なのは、ゼロの仮面だった。覗き込んでみたり、スライドを動かしてみたり、くるくるまわしてみたり。ひとしきりいじくり回した後、はおもむろにそれを被った。

「…。だからお前は何をしている」
「息苦しくないのかなあ、ってずっと気になってて」
「そうか。で、ご感想は?」

 前後左右に首を動かしてみてから、はくるり、とルルーシュのほうを見た。いつもと逆の立場に奇妙な感覚を覚えていると、ルルーシュくん、と仮面の中から声が聞こえた。

「ねえ、これ、どうやってはずすの?」



(はずし方のわからないものを被るな、馬鹿か!)

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だっそうにきをつけましょう


「だからわたし、言いましたよー。ゼロは信用できるって」

 先ほどナイトメアが出てきた場所から歩いて出てきたのは、だった。待機している扇たちと、ナイトメアの向こう側で話しているゼロと桐原公のちょうど真ん中くらいで立ち止まる。

「まったく、桐原のおじーちゃんは疑い深いんだから」
「おぬしの信用だけで、キョウトは動かん」
「わかってますー。だからわざわざ、直に会ったほうがいいですよって言ったんですもん」

 先ほどまで生命の危機にさらされていた扇たちにしてみれば、拍子抜けするような穏やかさで会話をする、まるで祖父と孫のような二人。そこに、彼らからは姿の見えないゼロが憮然と割って入った。

。お前はトウキョウに残れと言っただろう」
「さりげなーく、いのうえさんに見張らせてたでしょ、わたしのこと。甘いね、ゼロ。抜け出すのは得意なんだ」
「キョウトにいたときからよく抜け出しておった。諦めたほうがよい、筋金入りだぞ」

 はあ、とゼロのため息が聞こえて、扇は思わず苦労人だなあなんて心の中で呟いた。



(キョウトに帰らせず、手の中に留めておきたいと思ったか、ゼロ)

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かまいすぎるのはあまりよくありません


「だからね、ルルーシュくんは過保護なんだってば。大きな作戦なんでしょ、わたしが行かなくてどうするの」
「お前は戦闘に向いていない、だから残れと言っている」
「実際の戦闘だけが戦いの全てじゃないって一番わかってるのはルルーシュくんでしょ」

 ぐい、と細い腕に胸元をつかまれ、引き寄せられる。その漆黒の双眸は、ぴたりとルルーシュの目に据えられていた。

「わたしにも、守らせて」



(紅蓮ちゃんが、かれんちゃんがゼロの騎士。でも、わたしもまもりたい)

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ていきてきにけづくろいをしてあげましょう


「それじゃあこれが、今回集めてきた情報。ディートハルトさんとは打ち合わせ済みで、重複してる情報は抜いてあるからね」
「仕事が速いな」
「そりゃあこれでもキョウトで働いてましたもの」

 書類の置かれた机に身を乗り出して説明を始めたの肩から、さらり、と一筋黒髪が流れ落ちた。カラスの濡れ羽色、と呼ぶという、日本人独特の黒髪。自らの色とも少し違うその一房を、戯れに右手で絡め取った。さらさらと指の間を通り抜けていく髪を弄びながら、ふと、もし平和だったら、などと思う。もし日本が日本のままであれば、はこんな殺伐とした仕事をすることもなく、神社の娘として穏やかな毎日を送っていたんだろう、と。

「ルルーシュくん」

 ふと気づけば、すぐ目の前にの顔があった。覗き込んでくる、漆黒の瞳、ふたつ。

「わたしは今、しあわせに生きてるよ」

 穏やかな笑顔が、その言葉に嘘が無いことを告げていた。全てを見通すその類まれなる瞳に微笑を返す。まだ髪に触れていた右手をの後頭部にまわして、引き寄せた。

 落とされたのは、やわらかな口づけ、ひとつ。



(もしも、じゃなく、今ここにあるしあわせを。)

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おこらせるとおもわぬはんげきをうけます


 トレーラーの机に、『おーぎさんへ』と書かれた一枚の紙がたたんで置いてあった。名指しを受けた本人は、ぺらり、とその紙を開いて書かれているまるっこい文字を読んでいく。二秒もかからずに一度読み終わり、目を擦ってからもう一度読んでみる。悲しいことに、書かれていることが変わってくれちゃったりは、しなかった。どうしたんだよ、と聞いてくる玉城に曖昧な返事を返して(だってなんて言ったらいいのかわからなかった)、扇はある番号へと電話をかける。数秒後、相手はいつも通りの静かな声で電話に出た。

「ゼロ。からの伝言だ。俺宛だけど、たぶん君に言いたいんだと思う」
「なんだ?」

 扇はもう一度、ちらりとまだ右手で持っている紙に目を落とした。簡潔な一行は未だそこに鎮座して、読み上げられるのを待っている。

「言うよ」
「早くしろ」

 無駄なことが嫌いなリーダーにせかされても、心構えが必要なのだからしょうがない。扇は覚悟を決めると、息を大きく吸い込んだ。

「 『実家に帰らせていただきます』 」

 吸い込みすぎてあまった息を吐き出す間、電話の向こうにあったのは沈黙だけだった。



(なあゼロ、君は一体何をしたんだ)

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きほんてきにマイペースです


「ねむい」
「は?」
「だから、ねむい」

 騎士団のトレーラー内、ゼロの私室で二人で行っていた打ち合わせが終わった瞬間、はまるで宣言するかのようにそう言い放った。腰掛けていたソファーに、そのままこてり、と倒れこむ。

。そこで寝るな」
「やだ。昨日頑張って仕事したからねむい。オヤスミ」
「おい待て。…?」

 あっと言う間に夢の世界に旅立ったを見て、CCが感心したように呟いた。
「マイペースだな」



(お前にマイペースだとは言われたくないだろう)


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さびしがらせてはいけません


 部屋の扉を閉め、脱いだ仮面を放り捨てる。がしゃり、と落ちた仮面の向こう、座っていたの目から一筋零れ落ちたものが、蛍光灯の光の中で冷たく光った。

「あいつが敵だったことが、泣くほど悲しいか」

 声に宿るのは、苛立ち。そして、あふれ出てはくれない哀しみ。

「あいつが…俺達の前に立ちはだかり続けているあの白兜のパイロットだってことが、そんなに悲しいか」

 どうして。どうして、どうしてどうしてどうしてあいつが。呪詛のように繰り返しても、収まらない、痛み。

「あいつが…っ!」

 ガン、と壁をこぶしで叩いても、消えない、消えない消えない。

「そうだ、あいつはお前の親戚だからな、おまえはあいつの」


「ちがうよ」


 響いた声は、静かだった。慟哭など、どこにも感じられないような。

「すざくくんのために、泣いてるんじゃないよ」

 は立ち上がると、ルルーシュのすぐそばまで歩いていった。涙の無い紫紺の瞳を見上げた顔に、もう一粒、光るものが滑り落ちた。

「淋しいからだよ、ルルーシュくん」

 パイロットスーツのままの、ゼロのままのルルーシュの体に、ゆっくりと腕を廻した。右耳を、まるで心臓の音を聴こうとしているかのように胸につけて、緩やかに抱きしめる。

「君が泣かなくて、寂しくて、哀しいんだよ」

 せかいは、どんなにいとしいものでもかわっていってしまうから、さみしいね。そう呟いたを、ルルーシュはそっと抱きしめ返した。



(サミシイサミシイ。例え鼓動を感じられるくらいそばにいても。)

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2/28/07 First Up