「こっち、ルルーシュ」
「む、無理だよ、って、うわあっ!」
逢魔が時の薄暗闇に、どさり、となにかが落ちた音が響く。風にしては不自然なほど大きい、ガサガサという音も響いた。
「いったー…」
「静かに!見つかっちゃう…」
「もう見つかっておりますが」
地面に転がっている少年の深い紫色の瞳と、未だ木の上に残る少年の鮮やかな翠の瞳が、はっとしたように声をかけた女性に向く。柔らかな枯れ草色の着物と、この薄暗い中でも鮮やかな白い前掛けに身を包んだ初老の女性は、厳しい顔で数秒間二人を睨んだあと、ふっと表情を緩めた。
「今度は、塀を乗り越えたりなさらずに玄関からいらっしゃいませ。世間がどうあろうと、国がどうあろうと、お嬢様のご友人を拒むことなどこの家では起こり得ませんよ」
誇りに溢れる微笑を浮かべた女性は、それではどうぞこちらに、と言ってさっさと母屋のほうに歩いていってしまう。少年たちは面食らったかのように視線を合わせると、慌てて彼女のあとを追った。
中庭に面した畳張りの一室で、少女は眠っていた。いつもはくるくると活発に動く空色と藍色の一対は閉じられ、表情は少し歪められている。
「苦しい、のかな」
「熱高いって、剣崎さんが言ってたからね」
布団の両側で、二人は囁きを交わす。障子の向こうを木枯らしが駆け抜けていく。黄昏から夜へ世界は動いていくのに、部屋の中は、まるで時が止まったかのように穏やかで静かだった。
しばらく少女の顔を無言で見つめたあと、翠の目をした少年が口を開いた。
「そろそろ戻らないと。夕食の時間に俺たちがいなかったら、騒ぎになる」
「うん…」
さっと立ち上がったその少年をよそに、紫の目をした少年は少し名残惜しそうに少女の顔を見つめた。紅潮した頬と、いつもより荒い呼吸。思い出すのは、まだ平和だった頃に自分が熱を出したときの苦しさ。そして、そばにいてくれた、母。
「ルルーシュ。行くよ」
「わかってる。ちょっと待って」
立ち上がりかけていた少年はもう一度少女の顔の横に膝をついた。そのまま腰を屈め、額にひとつ、キスを落とす。
「な…にしてるんだ?」
「おまじない。昔熱を出したときに、母さんがしてくれたから」
少年は少し寂しそうに笑って、少女の顔を見つめ、心の中で呟いた。早くよくなってよ、。ナナリーと、スザクと、またみんなで遊ぼう。
「…それでの具合がよくなるなら、俺も」
既に廊下側の襖近くまで行っていた少年も、もう一度静かに少女に歩み寄った。傍らの少年を真似るように少女の額に唇を触れさせて、おやすみ、、と呟くと無駄の無い動きで立ち上がる。少年たちは顔を見合わせ微笑みあうと、そのまま無言で部屋を出て行った。
少女の眉間の皺が少し緩められたことを知るものは、誰もいなかった。
額にふたつ、僕らの友情。
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2/1/07 First Up
管理人のオリキャラ・剣崎さんに対する愛が溢れてます。
DVD一巻のピクチャードラマを見て書きたくなった幼馴染s。